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福岡高等裁判所 昭和25年(う)144号 判決

被告人

木村ヨシ子こと

上野タマエ

外一名

主文

被告人等の本件控訴を棄却する。

被告人タマエに対し当審における未決勾留日数中四十日を本刑に算入する。

理由

弁護人内田松太控訴趣意の第一点について。

昭和二十四年九月十日附起訴状に所説のような記載があることは記録上明かであつて、現行刑事訴訟法が起訴状一本主義、公判中心の直接審理主義を原則とし同法第二百五十六条第六項で特に裁判官に予断防止のための規定をおいた趣意に鑑み、妥当でないことは云うまでもないのであるが、しかし右のような記載事実自体起訴された公訴事実の存在の証拠となるものではなく、専門家の裁判官の職業意識から云つても、該記載事実を不足な証拠の補充として用いそれによつて心証を左右されるようなことは殆んど考えられないのだから、かような記載のある起訴状を直に違法な無効のものと論じ去るべきものではない。従つて之が無効を前提とする論旨は採用するに足らない。

(弁護人内田松太の控訴趣意第一点)

被告人両名に対する昭和二十四年九月十日付の起訴状は刑事訴訟法第二五六条に抵触するものと考えられる。

右起訴状には、公訴事実の冒頭に、「被告人両名は本年七月二十九日福岡地方裁判所柳河支部に於て竊盜罪に依り上野タマエは懲役一年六ケ月上野ミツエは同じく四年の刑の言渡を受け目下控訴中のものであるが」と記載されているが、右の記載は訴因自体でないことは明らかであり、何等記載の必要のないものである。

それどころか、本件にあつては被告人両名が頭初から犯罪事実を認めなかつた為に、故らに裁判官に予断を抱かせる目的で記載されたものと見なければならない筋合ではあるまいか。それ迄の故意がないとしても、少くとも裁判官に予断を生ぜしめる虞のある事項を附加したことは蔽うべくもないものと謂わねばならない。此の点に於て右の起訴状は刑事訴訟法第二五六条末項の趣旨に徴して違法のものであり、従つて無効のものと認むべきであつて、原審は本件に付公訴棄却の判決をなすべきに拘らず、之を看過したものであるから、原判決は破棄さるべきものと思料する。

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